大阪の映像制作会社パワー・アイ

ATFから学んだ経験

ATFとはアジア・テレビジョン・フォーラムという略称です。毎年12月にシンガポールで開催される、アジアを中心とした映像コンテンツを売買する国際見本市のことをそう呼んでいます。
香港で開催されるフィルマートと並び、アジアでは大きな国際見本市です。

ここに大阪市の外郭団体で、イメディオという公益の財団法人の呼びかけで、関西の映像プロダクションやアニメ会社、コンテンツの版権を持っている会社が集まって、一緒にATFに参加しました。

我々はこの集団を エキスコ大阪 と名付けました。単なる見学だけでは意味がありませんから、みんなで小さなブースも出店し、各々の作品を持ち寄り、総合チラシや簡単なポスターも制作し、コンテンツを売るぞ!と意気込んでの参加でした。

良い作品であれば、買ってくれると聞いていたので、その可能性を確かめるため、私も自ら権利を所有している自主制作しDVD3巻として販売した「高野山」の映像を1本にまとめ、英語版に仕上げたものを持っていきました。事前準備としては、DVDサンプル版50枚、英語版のちらし、さらには少し詳しい英語の資料などです。

我々のブースを訪れるバイヤーに対して、十数社で合計50ほどの作品の中で興味のあるものを 示し、商談をするわけですが、成果はゼロ。参加した全員が撃沈という状況でした。

何故、まったく売れなかったのか。後々になって、解ってきたのですが、

  • 作品がバラバラ、テーマで統一されていない
  • 作品の時間数も一定でないため、放送局が持つ編成枠にはまらない。主流は1時間もの
  • 内容がお粗末である。古い作品、今を反映させていない。

他のブースを見学に行くとですね、それは活気があって、自分たちの一押しのコンテンツをアピールするための大きなキャチコピーやデザイン、大画面も用意して、映像をプロモーションしているわけです。

それと比較すると、ブースに机と椅子だけを置いているだけの活気がまるで違うわけです。はっきり言って勝負にならない状況です。

それとこういった国際見本市に参加しているメンバー、放送局やディストリビューターが中心なのですが、みんな一緒に世界をラウンドしているわけです。

なので、それぞれが顔見知り、今年はあの会社の作品は力が入っているから買いである・・・とか、雰囲気でわかるわけです。

こういうマーケットは、大量のコンテンツ持っていて、かつ、毎年新たなコンテンツを制作しているという大規模な組織でないと参加しても意味がないのだな・・・と私は気づいたわけです。

つまりこういったマーケットで売買の実績を挙げようとするならば、統一されたテーマ、シリーズ化された良質な作品を大量に持っている必要があるということです。
それともう一つ気づいた点があります。

海外の放送局が売買の対象にする場合、1時間作品(正味53分)なのですが、平均で1500-2000ドル、経済力の低い国の場合は、5百ドル。数千万の制作費をかけたNHKスペシャルでさえ、3000ドル程度にしかならない。これは契約ですから、買い手の条件を飲むかどうかで決まる世界です。

しかも、その国での権利は3年から5年間。中には予告編やPRするためのポスターなどの宣材費もその販売価格に含まれるケースもあり、あまり美味しいマーケットではないと思いました。

こういった国際的なコンテンツ見本市会場でのポイントです。
出来上がった作品の価値は想像したよりも低い値段で取引されているということです。

帰って来てからは自分たちの経験のなさ、規模の違いに意気消沈。これから海外に出ていくにはどうしようか・・と先ほどのエキスコ大阪の仲間数人と頭を悩ませていた時に、また新しい情報が入ってきました。

それが、翌年の3月に韓国のソウルで開催されたASD (Asian Side of the Doc)です。

ASDから学んだ経験

ASDから学んだ経験

ASDとは、一言で云えば、ドキュメンタリーの国際提案会議のアジア版。アジア各国のインディペンデントのフィルムメーカーが優れた番組企画を応募し、事前審査の中からより優れた企画を、ヨーロッパ、アメリカ、アジアの放送局の決定権者、ディシジョンメーカーやコミッショニングエディターと呼ばれる人の前で、プレゼンし、それが認められると、手を挙げた放送局の出資を受け、国際共同製作として、企画が番組化され、放送されるという仕組

このようなオープンな企画募集の場があるなんて、我々日本のプロダクションにとっては驚きでした。直ぐに参加するなら、これだ!という風に思いました。

日本ではその番組のプロデューサーに企画を持っていき、その人に認められると制作費が貰えるということですが、大勢の目の前で、自分の企画の優位点、面白さをアピールし、時には何故その企画が面白いのか?などと切り返される非常に緊張感に満ちた世界があることを知り、是非とも参加してみたいと思い、新たな企画を考えて締切ギリギリに仲間と共にASDに企画応募してみました。

私が考えた企画は、
ASDから学んだ経験 日本刀(KATANA)の魅力を
紹介する番組企画
でした。
結果はもちろん、プロフィールにも書いてあるように撃沈でした。
お金、確か300ドルを払って企画応募すると、このような分厚いカタログに企画を掲載してくれます。そして4日間の期間中の入場パスももらえます。

このカタログには、アジア各国で活躍するプロダクションやフィルムメーカーの企画が数十ページにもわたって掲載されているのですが、事前審査された20ほどの企画は、参加者全員の前で、ピッチングというプレゼンテーションが行える権利をもらえます。

ピッチングとは、自分の持っているボール、つまり企画を相手に投げかけるという意味でつかわれています。プレゼンの時間が8分、質問時間が7分の計15分。プレゼンの持ち時間8分の中には、3分間程度の自分の作品のイメージを描いた予告編・トレイラーを上映するのが決まりです。企画の内容を口頭だけで説明するより、映像に携わるものなら、それを映像で示せ!ということだと思います。

ASDから学んだ経験 優れた企画のピッチングを観客として聞いているだけでも、本当に勉強になりました。堂々とした話し方、内容が凝縮されたトレイラー。まるで映画の予告編のような世界がピッチングで上映されるのです。

戦争・貧困・人権問題など様々な人間模様を深く描こうとする企画がピッチングされていくのです。

私の企画は、その選ばれる対象外であり、ピッチに立てなかったのですが、午後からは
One on Oneミーティングといって、海外の放送局の決定権者と一対一で話し合える時間が貰えます。そこで自分の企画を売り込むのです。

すでにピッチングされた企画は非常に有利となります。何故なら、One on Oneミーティングは1回20分。その中で企画を一から説明するわけですが、ピッチングされた企画はすでに基本的な内容はわかっているわけですから、さらに深い内容、時間が足りなくて聞けなかった質問などが話せるからです。

期間中は1日2時間程度はこのような時間が設けられて、フィルムメーカーが放送局の決定権者に個別にプレゼンできる仕組みです。

フィルムメーカーよりも当然、決定権者の方が少ないので、予約してその枠を確保するだけでも大変。みんな必死で、空いている予約枠に殺到します。私は主に、日本の文化に理解が深いと評判のフランスの公共放送局、フランステレビジョンやアルテ、そしてドイツの公共放送局にアプローチしてみました。

このような国際提案会議に初参加の私としては、トレイラーを作る時間も考えもありませんでした。このピッチングはどんな企画なのか?を話すのみ。

しかし反応はあまりよくありませんでした。

何故、反応が良くなかったのか。後々にやっと解ってきたのですが、

  • 企画にストーリー性がない。単に刀の作り方や素晴らしさを紹介しているだけ。
  • 物語の主人公となるべきキャラクターが不在
  • 世界の視聴者が見るべき普遍的なテーマがない

良くなかった点はいくつもありますが、この3点が決定的にダメだったポイントです。 では、どうすればよかったのか・・・これを4年間で少しは学ぶことができました。

このような国際展開をするセミナーで、必ずでる質問があります。

海外では、何が受けるんですか?

という質問です。 皆さんが一番知りたい情報ですよね。

はっきり言って、何が受けるのか?私にもよく解りません。

しかしながら、おぼろげにどんなことを求めているのかは、海外の放送局の方々と話し合い、 その話やアドバイスの節々から解ってきました。 そしてその企画が良い企画の条件であるか・・・そこには一つの法則があることを知りました。

海外で企画がる通用するための条件とは

海外のディシジョンメーカーたりが企画を審査する時のチェックポイントがあります。 これも後から学んだことですが、これをしっかり理解していないと、企画の方向性が間違った方向にぶれてしまいます。

まずは、5つのチェックポイントを如何にクリアーしている企画なのか?
その5つとはこれです。

“great story”
素晴らしい物語性
“compelling characters”
魅力的な主人公
“unique access”
自分だけが可能なアクセス
“production skill”
制作者のスキルと能力
“good timing”
何故今なのか

さらにこの5つに加えて最も根本的な要素はこれです。

 universal issue   普遍性(万国共通のテーマ)

物語性がない。魅力的な主人公がない。そして最も大切な普遍性がない。 日本国内で放送、または上映するだけなら別ですが、海外展開を考えた場合、日本の歴史、民族事情、その特殊性を知らない人たちでも興味を持って見てもらえる。ここが非常に重要であり、 皆さんがよく見失う点でもあります。

先ほどの私の「日本刀」の企画はどうだったでしょうか。

物語性がない。
魅力的な主人公がない。
そして最も大切な普遍性がない。

もうこれだけで、テストなら不合格ですね。

ドキュメンタリーの製作者がよく陥る穴に私も見事に入ってしまったわけです。私が考えた企画は
「日本刀の素晴らしさを紹介するだけの企画
でしかなかった。

単なるお国自慢の一つ
でしかなかったというわけです。

もうASDに参加したことで本当にカルチャーショックを受けました。世界にはこんな開かれた 世界があった。しかしその壁は非常に高い!今の自分では到底超すことができない高さだと。

そしてソウルから帰ってきた翌日に、311 東日本大震災が起きました。

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